海堂 尊『チーム・バチスタの栄光』

チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光

東城大学医学部付属病院が招聘したアメリカ帰りの心臓移植の権威・桐生助教授をリーダーとする「チーム・バチスタ」は、心臓移植の代替手術である通称バチスタ手術専門チームの通称であり、通常60%程度の成功率であるバチスタ手術の成功率100%を誇り、その名を全国に轟かせている。そんなチーム・バチスタが連続して3件の術中死を起こす。原因不明の連続死に危機感を抱いた病院長・高階は、万年講師であり不定愁訴外来(通称愚痴外来)責任者・田口に内部調査を依頼する。チームメンバーから聴取を行い手術にも立ち会った田口だが、調査は難航。そこへ現れた厚生労働省の変人役人・白鳥。田口は白鳥とともに死の謎を追う。


巷で話題の第4回「このミステリーがすごい!大賞」大賞受賞作です。ドラマ「医龍」でさも“バチスタ手術”がすごいことのように描かれているので、なんとなくドラマを見終わってから読んだほうがいいかな・・・と躊躇していたのですが、我慢できなくて読んでしまいました。あれ?バチスタ手術ってこんなに頻繁にやる手術なんですか?一月の間に4件とか普通にやってますよ?バチスタ手術に対する神々しいイメージがちょっと下界に降りてきたかも。ドラマで朝田先生が華麗にバチスタ切ってみせてもそれほど凄いというわけでもない気がしてきました。やっぱ読むの早まったかな・・・・・・。
それはさておき。評判通りとても面白かった。医療ミステリーとしてはそれほど目新しいネタではないし、犯人当てとしても特に凝った作りになっているわけでもない。でもすごく面白かった。ベースになる医療とミステリーという二つの土台はいい意味でオーソドックスでしっかりしていて、その上でこんな奴いねーよ!と思うような人物が動く。そのバランスがとてもよく、巻末の選評で各選者が触れているように、とにかくキャラ立ちが抜群なのです。
特に厚生労働省の役人・白鳥は折り紙つきの変人でいて頭脳明晰のロジックモンスターですから、ほとんど漫画です。役目柄、滔々と論理をぶちかましまくるわけですが、語る内容が専門的だということを差し引いてもなんか騙されてるような感じがするというか、胡散くさいわけですよ。でもキメるところはバシっとキメると。奥田英朗作品に登場する伊良部先生の確信犯バージョンという感じ。そういう意味では特別新しいタイプの探偵役ではないのだろうけど、1作目でここまで完成されたキャラを作るのは素直に凄いと思う。部下の“氷姫”も気になる存在だし、是非ともこれはシリーズ化して欲しいです。
語り部である田口もいそうでいない医者なのですが、ベタすぎるツッコミ力といい一見無欲に見えて実は気にしーなところもあったりと憎めない人物で、ラストはちょっとカッコよすぎるかなーとは思いますが、充分共感できるキャラに仕上がってます。
チーム・バチスタのメンバーは、それぞれに聴取という形で話を聞かれる、しかも表と裏(と言う言い方が適当か分かりませんが)両面から話を聞かれるという構図になっている上に、ミステリー部分(犯人当て)に直結するということで、どの人物もちゃんと個性が与えられているし、7人と少人数ではあるものの人間関係のしがらみもあるし、頭を使わなくても理解できる範囲内で属性を含めた人物の把握ができました。
大学の付属病院が舞台ということでステレオタイプな教授もいるし、権力闘争的なものを思い浮かべがちですが、そこらへんはスパイス程度。そっちはそっちで面白そうな関係性なのですが、主題はそこではないと気持ちよく割り切ってます。
謎の部分は医療モノということで、分かるんだけど完璧に理解できるわけでもない・・・というもどかしさはありますが、動機は充分納得できるし、実験対象の犬の世話をしていた犯人にとっては犬も人も価値としては同じという理論には反論できない私なのです。
苦味のある結末からその後の後日譚はちょっと気障すぎる気がしなくもないですが、清々しい読後感を与えてくれるし、単純に面白い本を読んだなーと思えました。
次にママンが貸して欲しいと言っているのですが、読み終わったら絶対「映像化したら誰が田口センセかしら?誰が桐生先生かしら?誰か高階病院長かしら?」て言うだろうな。でも白鳥は考えない。だって男前じゃないから。