大沢 在昌『魔女の笑窪』

魔女の笑窪

魔女の笑窪

東京の裏舞台でコンサルタント業を営む水原。彼女には誰にも言えない、思い出したくない過去がある。「地獄島」での文字通り地獄のような生活。掟破りの島抜けをした水原の元へ「地獄の番人」が迫る。


ダメだー。主人公の水原に全く感じない。ハードボイルド小説は主人公の魅力が命だと思っているので、それ以外がいくら面白くても脇の人物達がいくら魅力的でも、主人公がダメだったらダメなのだ。文字通りの地獄から抜け出し、成功した女コンサルタント。仕事上メリットがあるならば身体を使う。女という武器を効果的に利用するために努力し金をかけ、自分を磨いている。クールでタフで一匹狼な女。この本に対して著者が「悪女を描きたかった」というようなコメントをしているのを読んだ記憶があるのですが、別に悪女でもない・・・よなぁ。情報の為に男と寝たり、そうするしかないのなら殺しも厭わない。決していい人間ではないけれど、悪女というのとは違うと思う。悪女の定義があるわけではないから、感じ方は人それぞれだろうけど、私が思う悪女は自分のことしか考えない女で、その為に女という性を使えるだけ使うし、自分の欲望や目的への道をひたすら進み、その過程でどれだけの男の屍が増えようが気にしない・・・ベタな表現ですけどそういう女。外見は関係なくて、性質だと思う。この本の主人公は、まず目的らしい目的がない。贅沢はしたいみたいだけど、でもそれはある程度金があれば誰でもする程度の贅沢で、更に上の生活を求めてもっと金を稼ぎたい!みたいなギラつきがあるわけでもない。仕事の過程で女を売り物にしまくるわけでもないし、自分が多少危ない目に合いそうでも気になる男のことは助けようとする。・・・結構真っ当なんじゃないか?と、むしろいい人間な気がするわけです。まぁ小説は人が死んでナンボな私なので、そこらへんちょっと麻痺してるところはあると思いますが。

この主人公のキモとして「地獄島」というキーワードがあるわけですが、この描写も甘い上に、この女が島抜けした後どうやって今の地位を築き上げたのかということが全く描かれないので、主人公が過去を恐れることに対して何の感情も湧いてこない。「地獄島」自体も素敵な呼称のわりには、一見客も普通に入れんのかよ!?って感じで、そこまで知る人ぞ知る存在のようには思えない。お土産屋さんもある地獄ってなんだそりゃ?って思う。働く女にとっては地獄なのだろうけど、だったらその地獄っぷりを描いてくれなきゃ。

ラストはお得意のヤクザや中国マフィアが出てきてドンパチで終了。え?何それ?番人弱っ!!。力勝負になるとどうしたって女は弱いわけで、こういう終わり方にするならばせめてここに至る過程を主人公主導にしてくれないと、なんだか可哀想な女に思えてしまうのですが。ていうか結局こういう終わり方にしかできないのかよと。
比べても何の意味もありませんが、やっぱり村野ミロが最強だな。