東野 圭吾『容疑者Xの献身』

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

天才数学者が、密かに愛する隣人母娘が犯してしまった偶発的な殺人を隠蔽するために用意した鉄壁のアリバイ。天才数学者の友人であり、これまた天才的頭脳を持つ物理学者湯川学が、このアリバイ崩しに挑む。

湯川・草薙シリーズとしては異色の、真っ当な倒叙+アリバイトリックモノです。よーし暴いちゃうぞー!と鼻息荒く読み始めたのですが、ちっとも分からない。微妙にズレてる気がするなーとは思ってたんだけど、でもそれがなんなのかはっきりとは分からなくて、こういう結末になるとは思いませんでした。ビックリで納得。そこへ至るまでの論理には文句の付け所がないと思うし、結末で明かされるそこまでしても愛する人をを守りたいと思う理由、そしてその人を愛するようになった理由も十分納得できました。読後感の空しさと切なさはかなりのもんです。
枠としてはミステリとして語られるんだろうけど、私はトリック云々よりも、どれほど才能があっても相応しい場所を与えられない社会の狭さや、社会の片隅でひっそりと孤独や不安を抱えて生きる辛さの方が心に残った。冒頭に描かれるホームレスたちがそれを象徴していて、しかもそれが単なる掴みで終わらないところが小説家東野の上手さだと思う。