朱川 湊人『さよならの空』

さよならの空

さよならの空

死んだ恋人の思い出を胸に生きるテレサ(八十数歳)が開発した化学物質ウェアジゾン。それは、空に散布することによって、オゾンホールの拡大を食い止めることが出来るという画期的な発明だった。しかしそれには、思わぬ副作用があった。ウェアジゾンは、夕焼けを消してしまうのだ。世界中で夕焼けを巡って騒動が巻き起こる中、ついに日本政府もウェアジゾンの散布を決定する。そして、開発者であるテレサは、ある想いを達するために日本へ向かう。日本へ着いたテレサは、目的地へ向かう途中で小学生のトモルとキャラメルボーイと名乗る奇妙な若者に出会い、行動を共にすることに。日本で夕焼けが見れるのは今日が最後。夕焼けを失うとき、人々は何を目にするのか。

環境破壊やフロンガスによるオゾン層の破壊、いつも後だしジャンケンの行政、育児放棄の母親、正常な人間関係を築けない若者など現在進行形な要素が取り入れられていて、これまでに刊行された作品と比べると、ちょっと雰囲気が違います。過去の作品は特に時代を定めてなかったと思うんだけど、これは明らかに現在だからというのもあるし、怖さの質も違う。この人の作品といえば「ノスタルジー」だと思うんだけど、これまではそこはかとなく郷愁を覚える・・・そんな感じだったのが、今回は「夕焼け」ですから。直球です。
主人公はアメリカ人のおばあちゃんで、ちょっとかっこいい不思議な男と少年が旅のお供と、なんとなくハウル的。完全にあの絵で読んでました。ウェアジゾンという物質に纏わる物語と、おばあちゃんとトモルとキャラメルボーイの旅がどういう風に結びつくのかなぁ、この人ホラーの人だからなぁ・・・と思いながら読んだのですが、えー!?そういうことしちゃうわけ!?ってな展開でした。ホワーンとした物語に紛れて結構すごいシチュエーションですよ、これは。
いろんなことが考えられる話で、普段は意識してなくても大切なものは沢山あって、それを守るのも壊すのも人間で、夕焼けを消してしまえるほどの力を持っていても、それでも万能ではなく、むしろ脆いのが人間である。まぁ当たり前のことなんだけど、常に科学は進歩してるわけで、次の世代また次の世代と、大切なものを守るために、取り戻すために人間は努力しなくちゃならないんだ、そんなことを思いました。とりあえず、ムースよりもワックスで、ゴミの区別はしっかりやりましょう。そんぐらいしかできないもんね。