五十嵐 貴久『TVJ』

TVJ

TVJ

お台場のTV局「テレビジャパン」が完全武装した正体不明の集団に占拠された。建物は25階建ての高層ツインワー。偶然の巡り合わせから犯人による拘束を逃れた高井由起子(29歳 経理部員)。30歳を目前にし、ようやく「結婚」という幸せを掴んだと思ったのに、肝心の婚約者は人質の中に。愛する婚約者を救うため、ヒロインの「ダイ・ハード」ばりの活躍が始まる。


なんかいろんなものがごちゃ混ぜになったような感じ。お台場でテロとか高層ビル爆破とか交渉人とかSATとか現在進行中の事件をTV中継とかどっかで読んだっぽいぞ・・・なアイテム満載で、これが「現代(とかいていまと読む)風」なのかなーと思った。
特別目新しいものでもないのですが、常々この人の本はエンターテイメント性というかリーダビリティが高いなと思ってて、これもその点では文句なしです。おいしいところをちょっとづつつまむ、そのつまみ加減が上手い人なのだな。
特に、現実にテロが起きているんだとTV局の職員達が認識するまでの流れが素晴らしく、テロリストに向かって「今忙しいから、また来週来てくれる?」と言うなど、局員の浮世離れした感に笑ってしまった。実際こんなイメージだよな。
帯から受ける感じだと、単なる普通のOLが、建物の構造を敵よりも知っているという強みだけでかく乱できてしまうという「ホワイトアウトTV局バージョン、しかも女で」みたいなものを想像してたわけですが、さすがにあれほどではなかった。都合のいい偶然が重なりすぎってのと生命力強すぎってのはあるけど、そこはまぁエンターテイメントですから。女ならではのラストシーンは、あの会話がここに繋がるんだーとちょっと感心。
OLの冒険とはに犯人と警察とのやりとりをTV中継するという「劇場型犯罪」の側面もありまして、過去に「交渉人」を主役にした本を書いてるだけあって、やたら人物造形に気合の入ったネゴシエーター役の捜査主任が登場します。ネゴシエイター流行ですからね。どっちかというと、OLよりもこっちのほうが多くページを使ってるような気がしたのですが、OLが1人闘うという趣旨の帯にしたのは、女性客を取り込もうという作戦でしょうか。一応愛の物語だしな。