- 作者: 重松清
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/10/27
- メディア: 単行本
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東京でコピーラーターを目指している「ノブ」。彼女のふるさとには謎の類人猿「ヒナゴン」がいる。ガキ大将で暴走族の総長、そして現在は町長である「イッちゃん」が立ち上げた類人猿課に期間限定で採用されたノブは、ふるさとへ帰郷する。日本中どこにでもありそうなふるさとは、市町村合併問題で揺れまくり、町長選にヒナゴン騒動も加わって町中ヒートアップ!ヒナゴンは実在するのか!?そして町の行く末は!?
もー、すっごいいい話でした。電車の中が読書タイムなのですが、とりあえず涙こぼさないように必死。「ヒーナーゴーーーーン(涙)」ってな感じ。あ、比奈町なんでヒナゴンです。田舎だけにネーミングは単純。キャラクター造形抜群です。元ヤン町長のイッちゃんを筆頭に出てくる人たちがみんな立ってる。紙の上の出来事じゃなくて、ちゃんと動いてるって感じがしました。なかでも一番はやっぱりヒナゴン。超ロマンですよ、山奥に謎の類人猿!あああいいなぁ。
町長のイッちゃんは小学校の頃、一度だけヒナゴンに会ったことがある、と「信じている」。ノブはひいお祖父ちゃんの健作さんがその昔「ヒナゴンに会った」と言っても信じてもらえず、くやしい思いをしたことを知っていて、大好き(ひいお祖父ちゃんの写真がハンサムだったから)な健作さんを「信じる」からヒナゴンのことも「信じている」。物語の中はずーっと「信じる」という行為の素晴らしさでいっぱいです。こう書くと、単なるおとぎ話のように思えてしまうけど、そこは重松清ですよ。ヒナゴンの後ろには暗い歴史があるかもしれないこともちゃんと書く。語り口は軽いけど、きっとどこの地方の小さな町でも抱えている社会問題がズバっと書いてある。口ではヤイヤイ言うけれど、でも誰も本気で考えていない、立ち上がろうとしない。ぬるま湯どっぷりな今の社会。西野くんの演説シーンは本気で涙こらえました。そして語り部のノブやダメライターの女の子を使ってさりげなく、1人都会で働く若者の悩みも汲み上げるわけです。くぅー、やっぱ上手いな重松は。
私は東京まで通えるところに実家があるので、ふるさとと呼べるような場所はない。それが少しだけ残念に思えた。なんだかふるさとってよさそうだなぁ・・・ヒナゴンに会いたいと思ってしまった。