小笠原 慧『サバイバー・ミッション』

サバイバー・ミッション

サバイバー・ミッション

2013年、スラム化の進む東京。警察は、事件被害者の脳から記憶をトレースするという画期的な科学捜査を開発。その技術を嘲笑うかのように、連続首狩り殺人事件が起こる。犯人を追っていたカリスマ女性捜査官もヘッドハンターの餌食に。警察側の情報が犯人に漏れている疑いがある為、新人捜査官の麻生利津に単独での極秘捜査が命じられる。そして彼女のパートナーとして授けられたのは、人工知能ドクター・キシモト。首狩り殺人を追ううちに浮かびあがる過去に起こった天才研究者に関する事件。遺体に残されたソンディ・テストのカードと古い風景写真の謎。
羊たちの沈黙』を超えるサスペンスと、『ブレードランナー』並みのサイバー感。だそうです。


この帯文ですけど、「羊〜」の方は超えているのに「ブレード〜」は並みってところがちょっと笑える。女性捜査官が、自らは活動することができない年上の男性から知的アドバイスをもらいつつ、サイコ犯を追い詰めていくというパターンで「羊」的。拘置所の最奥にいる受刑者に面会し、相手から執着されたりするあたりもまんま「羊」。この設定って、やっぱり魅力的なのかなぁ・・・。それほどとは思わないんだけど、それだけ「羊たちの沈黙」が衝撃的だったってことなんだろうな。で、捜査官とともに事件を考察する存在が、対話型知的エージェント(AI)。探索的プログラムで動く最新鋭のボルツマン・マシーンに犯罪捜査に必要なあらゆる知識がロードされているらしい。んー、なんじゃそりゃ!?あちこちに小難しい表現が出てくるんですよ。例えば、“これも、モンターギュ文法で構成されたパロールなのだろうか”とか“ソンディの精神分析論では、精神は弁証法的ダイナミズムの中で捉えられるとされる”とか“前景人格と背景人格に相当する前景プロフィールと補償プロフィールを分析することによって、両者が螺旋状に織りなす、その人物の運命を概観することが可能となるとする”とか。なーんとなく分かるんだけど、やっぱ意味不明。さすが東大哲学科中退+京大医学部卒のお学歴!(ちょっとヤケぎみ)。
このAIが段々と人間的な心=意思を持ち始め(そこまでハッキリした表現はないけど)、捜査官もマシンに対して人間に対するような感情を持ちはじめる。そこらへんが「ブレイド〜」的といえるかな。捜査官の持ち物とか車とか小道具も「ブレイド〜」っぽい。というわけで、お膳立てはなかなかだと思いました。
ソンディ・テスト用のカードという謎も目新しい。女性ばかり殺されるのもいい。段々と明らかになっていく過程も手掛かりをつかんだと思ったら殺されていたりと引き込まれます。ラストは一瞬?あれ?と思ったけど記憶をトレースしたりできるんだから、ルパンばりに変装用マスクを作ることぐらい簡単なんだろう と自分を納得させました。
ということで、すごく面白かったと言いたいところなのですが、主人公の女捜査官がイマイチ・・・。自分で自分の感情をコントロールしにくい状態なのも年齢なのも分かるけど、キレて街のチンピラと乱闘してみたりだとか、元カレに対する気持ちだとか、なーんか輪郭がはっきりしないんだよな。行動と言動と感情がちぐはぐなの。比較するようなものでもないのだろうけど、やっぱりクラリスなんかに比べると魅力に欠ける。どーせリアリティないんだから思い切って超キッツい女だとかドジっ子だとかエロいお姉さんだとか、なんでもいいからもうちょっとキャラ立てしてくれてたらめちゃめちゃ面白い!と言えたと思う。


タイトルのフォントがかっちょいいです。合ってるなと思った。最近オサレな装丁が増えてきて、なんだか嬉しい。