石黒 耀『震災列島』

震災列島

震災列島

うーんうーん、これはなんですか一体・・・。読む前の想像をとにかく裏切られました。
地震という自然災害が起こり、例えばそれを予想する人達だったり、政府の災害対策委員会みたいなところの人たちだったり、もしかすると単なる一般人が主役で、会社で被災したサラリーマン(じゃなくてもいいけど)が家族の元へと辿りつくまでだったり、災害に対する人々のパニック小説とアクション小説の混ざったようなものに、この著者ならではの専門知識が加わったという、まぁ前作の地震バージョンってのを想像してたわけですよ。それが・・・・・・・・・。まじびっくり。いや、いい意味ってわけじゃないですよ。といってそれほど悪い意味でもないんだけど。
とりあえず、設定はおもしろいんですよ。主役は町内会長をしていて、人望も厚いおじいちゃんとその息子。最愛の存在をヤクザに奪われた二人は、近いうちに地震が起こるということが決定的だとされる状況を利用して、ヤクザ相手に復讐することを決めた。しかも相手は1人じゃない。ヤクザ40人ほどを皆殺しにするつもりだ。せっせと準備に励む二人。やがて待ちに待った地震がやってきた。二人は見事復讐を遂げられるのだろうか。
ほんとにこんな話なんですよ。めちゃめちゃおもしろそうでしょ。とにかくこのおじいちゃんが男前なんですよ。男前っていうか男気。で、名古屋弁。でもこれが読みにくい。おじいちゃんという人の魅力の一つだとは思うけど、話の筋には無関係な要素なわけで、名古屋弁の脇に標準語のルビが振ってあって、どうしてもそこでテンポダウンしちゃうんだよなぁ。緊迫感も全然ない。だって地震が始まって目に見えるところで建物が倒壊したり、何かが爆発したりしてるのに、おやじと昔話してた息子は「で、オヤジ。その続きは?」とか聞いちゃってるんですよ。いや、今そんなこと話してる場合じゃないだろ!ってな感じですよ。肝心の復讐シーンも、ものすっごい残酷な方法で、想像するとシュールな状況だと思うんだけど、それとオヤジと息子の会話とのギャップがね、すごくバランス悪い。このバランスの悪さってのは全編通して漂っていて、力の入れ加減間違ってるっていうか、妙にディテールが細かいところがあるんだけど、そこはそれほど書きこまなくてもいいんじゃないか?それよりこっちを書きこんだほうが・・・と思ったところが結構あった。あとストーリー強引すぎるし。
前作も今作も、自然災害の怖さ、自然災害に対する科学、自然災害と闘う人間(ドラマ)という3本柱は同じだと思うんだけど、前作は火山の噴火という、普通の人(活火山の近くに住んでいない人の方が多いですよね)にはあまり馴染みのないテーマであったせいか、人間ドラマを描きつつも、前二つが強烈な印象を与えるスペクタクル巨編的だったのに比べると、今作は、前二つが2割に人間ドラマが8割ぐらいの感じかなぁ。しかもその人間ドラマも、それほど地震と関係ないっぽい。間接的にはあるけどさ、町から誰もいなくなるという理由付けとしての地震だから。面白くないわけじゃないけど、これなら石黒耀という人が書く必要はない気がする。実際、千葉刑事が交通整備中に地震に巻き込まれるところが一番リアルで怖かった。そういう描写はすごく上手い人だと思う。でもこのまま災害ネタでひっぱるわけにもいかないだろうし(ネタが尽きるでしょ)、どうするのかなぁ。この調子なら、災害ナッシングな小説を書いたとしても、期待できないなぁ。