周利 重孝『夏の扉』

夏の扉

夏の扉

ぼくたち、またやり直せるだろうか――― 突然、姿を消した親友。彼にはコンビニ強盗の容疑がかけられていた。訪ねてきた刑事に「君は本当になにも知らないんだな」と言われたぼくは愕然とする。小学校からずっと一緒で親友だと思ったあいつのことを本当は何も知らない。いくつかの謎を残して消えてしまった親友を探しながら、少年はひとつずつ、大人への<扉>を開いていく。 完璧なジャケ買い。シンプルな装丁で、帯とのバランスがとてもいいと思った。雰囲気や文章から受ける感じは樋口有介や本田孝好の路線。帯によると、どうやら新人さんらしいのですが、これなかなかですよ。「青春恋愛ミステリー」だと思うんだけど、すごくバランスよく各要素が交じり合ってる感じ。主人公は、少年と言えども大学2浪の二十歳の男で、その年頃独特のモラトリアムな空気がすんなりハマってる。内に閉じこもるんじゃなくて、煮詰まったら身体を動かすっていう考え方もいい。親友を追いながら出てくる謎も適度な謎具合だし、追いかけっぷりも自然。海辺の街が舞台で、ちょっと深い場所、藍色の底から光と空気を求めて浮かび上がると段々と明るくなっていく海っていうのが心象風景としても効果的だと思った。前に書いたような作家を思い浮かべたぐらいなので、登場人物はかたっぱしから血が通ってなさそうでツルンとして冷たいといった印象。お上品なのね。それがマイナスに思える人もいるだろうけど、この作品は逆にそれがいいと思う。淡々としてるそのせいでエピローグがぐっと引き立つというか、締まる。あまり好みではないラストだと思うんだけど、これは素直にいい、と思った。というか書き出しを忘れてました。回想だってこと忘れてた。ちょっとびっくりした。それぐらいすんなり入りこんじゃったんだよなー。ものすごく「夏」の物語なんだけど、汗くさくないとこがいい、あとちょっと枯れた感じが。これはお好みな作家さんになるかもしれない。すごく次が楽しみです。