黒川 博行『ドアの向こうに』

大阪府警捜査一課の“ブンと総長シリーズ”。橋梁工事現場から発見されたバラバラ死体。同じ場所から発見されたにもかかわらず、頭部は腐敗し、脚部はミイラ状態だった。数日後に起こった心中事件の現場から、雑誌に掲載されたバラバラ死体の記事が大量に見つかった。二つの事件はどう繋がるのか?心中事件=密室の謎は解けるのか?黒川作品中、最も「本格ミステリ」要素の強い傑作! です。バラバラ死体、ミイラ、密室、青酸カリ、ゲイとまぁ好物オンパレード。それでもってめちゃめちゃ本格ですよ。おもきしフーダニット。それがまた難しいの。でもギッチギチ緊迫するとかそんなんじゃなくて、いつもの通り素敵会話満載。初期黒川作品ではあまり馴染みのない世界を舞台としてとりあげているですが、今回は設計事務所。公共建築のコンペに関する裏工作とかそんなの。いつもよりも情報の密度が薄めに感じるのは、本格ミステリとしての要素が重いからかな。トリックとどんな関係が!?とか思いすぎ。前作では、東京VS大阪という図式だったのが、今回は京都在住で親は警察のちょっとお偉いさんという機動隊出の年下の部下を絡ませて、大阪VS京都という図式。今回は一応部下ってことで、いつもに増して口が悪いブン(愛をこめて)。どっちも少しずつ住んだことのある身としては、どっちにもいいとこがあると思うんだけど、これ実際大阪の人と京都の人って、心の底では自分の方が上だと思ってるんだよねー。隣同士でよくもまぁあんなに違う気質になるよなぁ。「横浜」の人も東京に対して上下意識を持ってたりするけど、なんか不思議。ちなみに千葉と埼玉は他の土地の人が思うほど、対抗意識とか持ってませんよ。つーかどーでもいいよね、お互い。解説読んでて、あーなるほどと思ったのは、黒川作品でよく言及される「洒落た会話」(黒川さん自信もできるだけ沢山の洒落た会話を入れたい、と思っているそうで)は、エルモア・レナードやジョー・R・ランズデールを連想させる、とのこと。まさにその通りだな。事件そのものは重苦しいものになってしまいがちなところを、猥雑で、それでいて洒落た会話を挟むことで気持ちよく、楽しく読める。当然、洒落たセリフを吐く登場人物も魅力的でなきゃならない。まさに、ランズデールじゃん!と今更気がついちゃいました。いつもいつも書いてますけど、このシリーズを刊行してくれた東京創元社ありがとう。沢山の人に読んでもらいたいんだよほんと。