山本 音也『殺し屋はバスに乗る』

殺し屋はバスに乗る

殺し屋はバスに乗る

初めての作家さんです。ジャケ買いってよりもタイトル買い。清張賞作家初の切ないクライムノベルってなことで、クライムノベルには無条件反射する私。登場するのは元刑事の恋人に死なれたコールガールとそのヒモ、コールガールに一方的に恋をするお侍言葉でしかしゃべれない青年、ラブホテルの受付をしている老婆、退職間際の「ベンチまぐろ」と呼ばれる老刑事。舞台は新宿で、起こる事件は元刑事で現チンピラヤクザが滅多刺しで殺された、というものだから充分クライムノベルの下地はあるけど、クライムノベルは言い過ぎ。でもそんなことはどーでもいいのだ!と思えるほどハートフルな物語だったのだ。みんな切ないの。出てくる人達みんなダメ人間で、それも性格的なことだけではなくて、自分の力じゃどうにもならないの。抜け出したいんだけど、でも新宿でしか生きられない。唯一まともな生活を送っているっぽい老刑事もうまく他人との関係を結べなくて出世できないおっさんで、張り込み中ベンチで横になって寝てしまったせいで若手からは「ベンチまぐろ」なんて呼ばれてしまってる。楽しいことなんてないし、ただ存在してるってだけの人達。惰性。それはお話とか他人事なんかじゃなくって、ふとした瞬間に自分だって入り込んでしまう迷路なんだと思う。そんな中、侍言葉を話す「ガーシー」の言葉 "人は心の中に光を持たないと生きていけない" これちょっと響きました。目標でもなくて、希望でもなくて、人でもモノでも場所でもいいんだろうけど、なにか。大切なのは気持ちですよ。再確認。