桐野 夏生『残虐記』

残虐記

残虐記

若くして天才と呼ばれた女性作家が一つの原稿を残して失踪した。そこには自身が25年前の少女誘拐・監禁事件の被害者であったという驚くべき事実が記されていた。22年の刑期を勤め出所した加害者からの手紙によって封印していた記憶が溢れだしたのだ。果たして真実はなんなのか。それは誘拐犯と被害者しか分からない。グロテスクに続き、実際の犯罪がモチーフとなっているようで、今度は「新潟女児監禁事件」。大人になり作家となった被害者が、作品として当時を正確に書き記すという形をとっている。実際に監禁されていた間のことはそれほど書かれておらず、開放された後の方がより多く描かれている。ひねたというか、世の中をまっすぐに見ない女の心の描写は桐野夏生が一番だと思う。事件後の少女はもちろんだけど、誘拐される前の周囲から微妙に孤立してしまう自分、周囲の悪意、そういう描写が尖ってる。中でも少女の母親はすごいな。女(少女)から見た女(母親)、そして作者も女であるからこそ、こういう描き方ができるんだと思う。少女が自分を性的人間だと思うのも桐野夏生だからこそ。そして実際の事件で誰もが思ったであろう「被害者と加害者の間に恋愛感情はあったのか?」その問いに対する答えも、やっぱり女ならばこそだと思う。すごく残酷。