加納 朋子『二百十番館へようこそ』

二百十番館にようこそ

二百十番館にようこそ

亡くなった伯父から小さな島にある不動産を譲られたことをキッカケに、親から計画的に捨てられたネトゲ廃人ニートが生活費を工面すべくニート仲間を集めてシェアハウスを作る物語です。

ほとんど面識のない伯父から人口19人の島に研修センターとして建てられた(ゆえに部屋数が多い)館を譲られるところから物語は始まりますが、これは「ニートのシェアハウス」を描くための舞台装置としての設定で、それが主人公に譲られた背景には主人公の両親の思惑・策略がありましたってことだけで小説における理由付けとしては充分なのでそれについてはそれ以上のなにかを求めてはいなかったものの、そこには「伯父さん」の物語があって、しかも主人公と伯父さんとは実はずっと前から交流があって・・・ってことを筆頭に物語のなかで描かれるあらゆることが綺麗につながって、この作品では「ニート」となった男たちですが同好の士だけが住まうシェアハウスってオタクの夢だったりするわけで、そこを舞台として島に住むじいちゃんばあちゃんたちと交流し問題に立ち向かったりするなかでそれぞれなりの「理由」でニートとなった4人の住人たちがトラウマを乗り越え再生できちゃうわけですからまさに夢物語以外のなにものでもないんだけど、それでも“タピオカさん”の正体とゲームに参加した経緯、“ラクダさん”の素性、そして伯父さんからの手紙で島の住人がみんなニートたちに親切であった理由が解る流れには胸を熱くせずにはいられませんでした。

夢物語だけど、こういうご時世だからこそこういう小説が必要だよね。かわいい猫ちゃんも出てくるし、これは万人におススメできる1冊です。