誉田 哲也『妖の掟』

妖の掟

妖の掟

帯に「原点『妖の華』再始動。」とありまして、誉田さんの作品は目についたものは全て読んでるつもりでいるけどタイトルに全く覚えがなく、それが「原点」ってどういうこと?と思って確認したところ、その「妖の華」という作品で第二回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞を受賞されているそうで(この作品はその前日譚)、それは私が誉田さんを知った「アクセス」(ホラーサスペンス大賞特別賞)の前のことらしく、私としたことがそれを知らなかった・・・さらに言うならムー伝奇ノベル大賞なる賞すら知らなかった・・・とちょっとしたショックを受けました。


それはさておき。
なんだこれめちゃめちゃ面白い!!。ムー伝奇ノベル大賞に応募されたわけですからそっち系の話ではありますが(賞の存在を知らずとも「ムー」であることは解ります)、時代は現代だし、ヤクザの権力闘争だし、勝手知ったる誉田作品の世界感で、ていうか井岡が出てきてびっくりしたわ!。つまりこれは井岡がいる世界の話ということになるのか!という驚きもだけど井岡おまえこの頃から(キャラクターとして)おったんかい!!という驚き。この時点ですでに「女性職員から嫌われている」とか、井岡おまえマジで筋金入りだな・・・(笑)。
(あ、でも「妖の華」に井岡が出てこないならこのシリーズ作品における井岡の存在は後付けになるかもしれないか)



ここからはネタバレになるので未読のかたは読まないことをお勧めします。




紅鈴と欣治の男女バディ吸血鬼物語であり、吸血鬼と親が理由でできた借金を返しながら妹を大学に行かせるために裏社会で働く圭一との友情物語であり、友情のためにヤクザと闘い、そして吸血鬼=この作品では「闇神(やがみ)」という名前の存在ですが、復讐のために闇神の村に殴り込みをかける
・・・という物語なのですが、関係者ほぼほぼみんな死にます。アッサリ死ぬ。そこまでに描いてきたものが一瞬で断ち切られる。この展開の潔さに痺れます。そこまでヤクザの権力争いや捜査にあたる警察の様子を描いておきながら、闇神への復讐という次のターンに入ったらそれらのその後は一切描かれない。だって紅鈴にとっちゃそんなことはどうでもいいことだから。

そう、私がなにに一番驚いたのかって、欣治と圭一を殺された、愛する男と大切な友達を奪われた紅鈴と闇神との死闘を描いたものが「妖の華」なんだと思い込んでたんで、そこがこれまたアッサリ片付いてしまったことなんですよ。

闇神の村があって、代々それを支える家があって、その家はいまでは議員を輩出し地元では一目置かれる名家になっていて、山奥に建てた自宅は万里の長城かと思うような塀に囲まれていて、闇神の村はその「地下」にある・・・なんてロマンあふれる舞台で紅鈴がどう暴れるのかとワクワクしたというのに、体感にして10秒ぐらいで村に住む闇神たちを皆殺しにし、それまで“畏怖”を持って描かれていた闇神の姫との対決も戦うことなく終わってしまい、え?話終わっちゃったけどどうすんの・・・?と。
紅鈴は東京に戻り、欣治にお別れを告げ、さてこれから独りでどうやって生きていこうか、というのが「前日譚」のラストって、この先どうなんのよ!?としか思えないわけで、そりゃ「妖の華」を読むしかないよな!とまんまと踊らされる私である。

読み終わってみれば「妖の掟」というタイトルはドンピシャなんで、となれば「妖の華」は紅鈴がさらにヒャッハーしまくる話としか思えないのでめちゃめちゃ楽しみ。