小路 幸也『国道食堂 1st season』

国道食堂 1st season (文芸書)

国道食堂 1st season (文芸書)

  • 作者:小路幸也
  • 発売日: 2020/01/16
  • メディア: 単行本

店主が元プロレスラーなので店内にリングがある国道沿いにある食堂が舞台で、店に集う客や従業員、様々な人間の視点でそれぞれの物語が描かれる群像劇なのですが、それぞれの物語は独立しているわけではなく、店主の父親が刺殺された話と、店主とは十年ほど前からの旧知の仲である置き薬のルートセールスマンをやっている客の話を軸として、少しずつ重なっている(章が進むごとにじわじわと軸となる物語が進展していく)という構成です。

いやあ、群像劇を書かせたらやっぱ小路幸也はすごいな!。「1st season」とついてるからにはこれからシリーズ化していくということでしょうが、最初っからもう完全にシリーズとして出来上がってる感がすさまじい。
小路さんの代表作と言えばバンドワゴンシリーズで、シリーズの“作り(方)”としてはおそらくこれも同じなのだと思う。基幹であり旗艦となる場所であり人がいて、誰かの紹介といった明確な繋がりであれ偶然であれ、その場所であり人と「縁あって」関わりを持つことになった人たちの話を描くというスタイルは同じであるものの、でもバンドワゴンシリーズとは明らかに「違う」ことがあって、それはなにかと言えば「家族じゃない」ということ。
バンドワゴンシリーズの中心は「堀田家」で、堀田家に問題を解決してもらった人たちも親戚のような関係となり、シリーズ全体がもはや「大家族」のようなものになっていて、そういうのって私にはちょっと眩しすぎるところがあったりするんですよ。その点この「国道食堂シリーズ」(という呼び方をされることになるだろう)はその真逆。

食堂のオーナーである元プロレスラーの「十一さん」以下従業員たちはまったくの「他人」で、食堂の2階(が簡易宿泊所になってる)に住むことになった高校生たちもそれぞれ家族を持たない(事情がある)「他人」で、食堂にやってくる客ももちろんそう。場所柄毎日通ってくるような「常連」ではなく週とか月単位で1.2回やってくるぐらいの距離感で、これが今の私には心地よい。それぞれの物語も(これからどうなるかはわからないけど今のところは)それぞれにとっての日常であり人生をサラっと描いているもので、いい意味で何も考えずに読めるところも今の私にはありがたい。

そんななかで1stseasonの“メインキャラ”である二方くんの物語があるわけですよ。父親を亡くし金銭的な事情もあって大学進学を諦め就職をしたという始まりこそ普通の兄ちゃんであった二方くんが、十一さんと再会し夢を思い出し、そこからはもう「運命」ですよね。才能がある者は出会うべくして出会うもので、自分のためだけにやるつもりだった「一人芝居」があれよあれよという間にすごいことになっていく。まさに人生が変わる瞬間がそこにあった。
そこはまあ「小説ならでは」と言えるわけですが、その出会いの場というか縁を引き寄せる場所として、この「国道食堂」という設定が実にイイわけですよ。なんか説得力があるんですよね。いやはや小路さん見事な設定を考えたなと唸らずにはいられない。

1stseasonは云わば“舞台装置とレギュラー・サブレギュラーキャラクターの紹介”といったところなので、どの人のどの話もこれからどうなるのか気になるし楽しみだし、十一さんの父親が殺された話もあるしね。シリーズとしては今回の二方くんのようにseasonごとに軸となるキャラクターを置くスタイルになると予想しますが、それが新キャラクターなのかそれとも1stseasonで語り部を務めたキャラクターのなかの誰かなのか、どっちにしても楽しみでしかない新シリーズの誕生です!!。