伊坂 幸太郎『クジラアタマの王様』

クジラアタマの王様

クジラアタマの王様

あとがきによると、アクションシーンを小説で表現することは難しいと伊坂さんは考えていて、人物の動きを文章化することはできてもスピード感や躍動感というものは映画やコミックのほうが効果的に表現できると。だから小説内でアクションを描く際は文章だからこそ楽しめる工夫を凝らしたくなる一方で、それを絵やコミックのようなもので表現し、それを作中に挟み込みたいという願望を抱いていたそうで、この作品は伊坂さんの『長年の夢がようやく叶ったもの』とのこと。

で、伊坂さんの夢が叶った作品の内容はというと『はじめに思い浮かんだのは、「昼間は普通の会社員、夜になるとロールプレイングゲーム内の勇者となる」といった比較的オーソドックスな設定でした』という巷に山のようにある「異世界モノ」なのですが、『夜の部分をコミックにすることで、非現実的な世界の活劇をより楽しんでもらえるのではないかな、と考えたのです』とありまして、まさにこれ、このコミックがめちゃめちゃ効果的!。

ていうか川口澄子さんという方が描かれた絵が可愛い!。

たぶんだけど、伊坂さんの文章だけでも想像はできると思うんだ。だけどこのほのぼのタッチの絵がなければこの「非現実さ」は生まれなかったと思う。たぶんもっと具体的に想像しちゃって、その想像はこの作品の空気感をそれこそ履いて捨てるほどある「異世界モノ」と同じくしてしまっていただろう。

わりと長いスパンで描かれている物語で、その中にはとても現実的な悪意があったり、反対にどんな状況だよ(笑)と思わず笑ってしまうような事件もあったりして(全然笑いごとじゃないんだけど、でも日本でクマ2頭とトラ1頭と同時に戦うなんてことはまあないよね)、そこであちこちに張り巡らされた仕掛けが終盤ドミノ倒しの勢いで発動していく様は相変わらずお見事すぎる。玩具のロケットをそんな使い方する!?そこに繋がるの!?って笑うしかなかったもん。

まあ一番驚いたのはハシビロコウさんのジョブチェンジっぷりでしたが。ハシビロコウ好きとしては結構ショックだよ?。