奥田 英朗『罪の轍』

罪の轍

罪の轍

東京オリンピックを控える昭和三十八年。北海道の礼文島で窃盗を繰り返す宇野寛治はその捜査から逃れるため東京へ向かった。一方、警視庁捜査一課の刑事である落合は、強盗殺人の捜査のなかで子供たちから「莫迦」と呼ばれる北国なまりの青年の存在を知る。
という物語で、捜査線上に浮かぶその青年が宇野寛治であることは読者視点のみならず落合の視点としても早い段階で明らかになるものの、読者感情としても落合の感触としても宇野寛治が強盗殺人の犯人だとは思えない。じゃあ犯人は誰か?という話になるのかと思ったら、新たな事件が起こり、それにはどうやら宇野と共に山谷の旅館の娘であるミキ子の弟で下っ端ヤクザの明男も関わっているようで・・・ってんでミキ子の視点も加わり、やがてそれは日本中が注目する大事件となるのです。

この展開がまあ巧い。決して「面白い」話ではないのにぐいぐい引き込まれる(私の読書タイムは通勤電車内なのですが、読み終えるまでの3日間のうち4回降車駅を乗り過ごしました。どんだけだよ・・・)。

そして時代背景ですよ。指紋にだけは注意するものの行き当たりばったりな犯罪人生を送る若くて愚かな男が大勢の警察官を振り回しこれだけの大事件を起こしたのは、いや、大事件になってしまったのは、初めてのオリンピック開催に沸く東京という場所であり時代だから、だからこそ成立する犯罪物語であるところが実にイイ。令和の時代にバリバリの昭和感がたまらない。

視点となる三人の人物を筆頭に、登場人物たちはみんな特別な何か(設定)があるわけではない普通の人間たちだけれど物語のなかでしっかりと生きていて、警察小説として群像劇としても読みごたえたっぷりで大満足!。