楡 周平『サリエルの命題』

サリエルの命題

サリエルの命題

日本のとある島で新型インフルエンザに感染して島民が全滅する。アメリカで行われていた研究データが流出し、それをもとに人工的に作られたウイルスによるものなのではないかという噂、疑いが囁かれるなか、本州でも感染者が現れる。治療法は日本の小さな製薬メーカーが製造する薬だけだが、国内に備蓄されている量は僅かしかなく到底全国民には行き渡らない。事態が刻一刻と変化するなか、政治家たちは「命の選択」と向き合うことになる。

・・・あらすじを書くならば↑こんな感じになるので、冷静に考えれば「ウイルスVS人間」を描く物語ではなく日本国内でパンデミックが起きる(かもしれない)事態に直面することで政治家や官僚たちがどう立ち回るかを描いているわけで、云わば「現場」ではなく「会議室」の話であることは明白なんだけど、物語の始まり・事の起こりは個人(数人)の感情・事情によるもので、対峙するであろう側も偶然にも同じ相手に個人的な感情・事情を持っている人間だもんで「現場」の話なんだと思い込んじゃったんだよなー。なので「思ってたのと違った」。

オリンピックを翌年に控えた日本が舞台なので、まさに「今」の話であり、エボラなどではなく「新型インフルエンザ」という身近なウイルスの話であるのでリアリティはあるし、政治家たちの保身・私欲渦巻くやりとりは言わずもがなで(その点、総理大臣以下重鎮たちが受けた「報い」にはザマーミロ!という痛快感はあったけど、でもそこにもまたリアリティを感じてしまう虚しさもありました)、そういう意味での読み応えはありましたが、私情でウイルスを作成し復讐した者たちの末路を含め「現場」の視点ももっと掘り下げられていたら、どうなる!?どうなっちゃうの!?という緊迫感はもっともっと出ただろうに。