六月大歌舞伎 夜の部『月光露針路日本 風雲児たち』@歌舞伎座

三谷幸喜作・演出による新作歌舞伎。タイトルは「つきあかりめざすふるさと」と読むそうです。読めない・・・。

風雲児たち」という漫画の存在は以前三谷さんがドラマ化した際に知り、それを今度は歌舞伎にするということで、勤勉なオタクを自称するわたしはとりあえずとワイド版の5巻まで読んだものの今回上演された話はそこまでに収録されておらず、結局なにもわからないまま(原作のノリは理解したけど)の観劇となりましたが、結論から言うと原作読んでなくともまったくもって問題なかったです。ていうか「この話」って3時間もかけて上演するほどのものか?。というのがまずの感想。
ストーリーとして歌舞伎美人にある「あらすじ」にあるほかにはなにもなく、大黒屋光太夫率いる船乗りたちが次々に死んでいくのをひたすら見せられるだけで、そんな話を「コメディ」として描くことに面白味があるのでしょうが、わたしには合わなかった。

そしてこれ歌舞伎なんですよね。それも歌舞伎座で歌舞伎として上演される作品なんですよね。この話をどう歌舞伎にするのか、歌舞伎として見せるのか、それを楽しみにしていたわけですが、はっきり言っちゃうけど「歌舞伎もどき」でしかなかった。ところどころで歌舞伎の「技」であり「味」を取り入れたりはしてるけど、それらは役者の技量でそれとして成立してはいるものの演出としてただ入れてるだけで、そこに(これが歌舞伎だからという以外の)それをする意味を見出すことができず、つまり『歌舞伎』として作る(作った)意義がわたしには理解できませんでした。

とはいえ面白くなかったわけじゃないんです。お目当ての猿之助さんは役のポジションがいい意味で気楽というかそのまんま演じるだけで「魅せられる」役なので猿之助さんの「演技」は見ごたえがあったし、(染五郎さんは別枠として)新悟くん、種之助くん、鶴松くんの若手三人もそれぞれ明確なキャラクター性のある(それが見える)役なので出番のわりには見せ場があってこれまた見ごたえ充分でしたし、なんといっても松也さんがすこぶる美味しい役どころでして、なので「役者を見る」という意味ではたいへん楽しめました(なんなら松也さん目当てで1幕を幕見で毎日見たいぐらい)(わたしの歌舞伎観劇人生においてまさか歌舞伎座で「家康」「いえやす」とC&Rする日がくるとはw)。これは原作からそうなのかもしれませんが、男女蔵さん演じる小市と彌十郎さん演じる九右衛門のキャラとかめちゃくちゃ効いてるしね。でもただそれだけ。そういうひとたちが居て、旅のなかで死んでいくというだけで、それ以上なにも広がらないし掘り下げられることもない。

わたしが見たかった、というか原作のあるギャグ漫画を「三谷歌舞伎」として上演することに対して期待していたものというのは、この役者たちが演じるこのキャラクターを使って「光太夫率いる一行による日本(ふるさと)を目指す旅」がどう肉付けされるか、ということにあったわけですが、ガリガリだったよね。一番「わあっ!」となったの犬だもん。犬ぞりだもん。力尽きて倒れる犬たちの姿トラウマになりそうだったわ・・・。

言葉選ばずに言うけどこんなにもスカスカのストーリーで3時間強飽きることなく舞台を見せられることはさすが三谷さんだしさすが幸四郎さん・猿之助さん・愛之助さんだとは思ったし、実際庄蔵(猿之助さん)と新蔵(愛之助さん)を露西亜に残し光太夫幸四郎さん)だけ日本に戻る別れの場面はこれよこれこれ!!!となったものでして、わたしが三谷歌舞伎に求め期待したのはこの人間物語と歌舞伎演出との合致なのよ!!!と、だからこそもうちょっと枝葉が充実していたら、特に芝居の上手さが光った鶴松くんの藤蔵と染五郎さんの磯吉との関係性あたりをせめてせめてもうちょっとだけでも掘り下げてくれていたならば(せめて磯吉とアグリッピーナとの恋ぐらい)(アグリッピーナ高麗蔵さんクッソノリノリだったw)満足度は桁違いだっただろうに・・・と、三谷さんならそれぐらいお手の物でしょう?と思わずにはいられない。