『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』@ 東京芸術劇場 プレイハウス

トルストイの「戦争と平和」を原作とし、ロックやEDMといった音楽を取り入れ全編を歌で綴り、劇場全体をレストランのように作り変え観客を巻き込み、トニー賞で最多12部門ノミネートされたことで話題となった作品の日本初演ということで、それはそれは楽しみにしていたのですが、面白くはなかった・・・・・・・・・・かなぁ。

正確にいうと「楽しかった」んだけど「面白くはなかった」。観劇という単語で説明すると、「観」としては楽しいんだけど「劇」としてはちょっとなあ・・・という感じでした。
だって話がはっきり言ってつまらないんだもん。

『ナターシャという若くて美しく太陽のような女性の婚約者が戦争に行ってしまった。残されたナターシャはアナトールと言うイケメンと出会い恋に落ち駆け落ちしようとするが失敗。一方ピエールという金持ちの引きこもりがいる。ピエールにはエレンという妻がいるが、財産目当てで結婚したエレンはドロホフというワイルド野郎と不倫していて、ピエールはドロホフに決闘を挑みこちらも失敗する。心身共に病んでしまったナターシャをナターシャの親代わりに頼まれ見舞ったピエールは、ナターシャに惹かれる。そこへ大彗星がやってきて、それぞれが見上げる大彗星は綺麗です』

ってこれだけの話。粗筋でもなんでもなくマジでこれだけなんですよ。たったこれだけの話を一つの作品にしちゃったことはそれはそれですごいと思うんだけど、人間関係はごちゃごちゃしてるものの(ピエールとアナトールとドロホフは友人で、ナターシャの婚約者とピエールも友人で、アナトールとエレンは兄妹で・・・とか)そのごちゃごちゃが話(の展開)において意味を持つわけでもなく、しかも全編歌(台詞を言わずにすべて歌)なのはいいとして「ナターシャはベッドに倒れた」とかト書きをそのまんま歌ってるもんで、違和感じゃないんだけどちょっと苦しいな・・・と感じる場面(歌)がちょいちょいあったんですよね。ただでさえ難しい(ミュージカルではあまりない)曲調なのにそれに乗せるのが説明調の歌詞だもんでまぁ・・・厳しいよなーと。感情を歌った曲であれば歌詞を聞き取れずとも感情自体はなんとなくでも理解できるけど、説明曲は聞き取れないと説明自体を聞き逃すことになっちゃうから。

とは言え楽しかったんですよ。開幕直前にアンサンブルさんたちが会場中(2階も)に散らばりC&Rしたりピロシキくれたりして盛り上げてくれるんでテンション上がるし、さすがにBWのように劇場をレストランにはできないもののステージを格子状にして間のところにテーブルを置いて客を座らせることでそれっぽい空間を作り、「出番」ではないシーンでもキャストがそこに入っていって観客と絡んだりするもんだからいつもの劇場よりも舞台と客席の距離がぐっと近くて(わたしは舞台上の席ではなくS席でしたが、客席通路も多用するのでなんどもキャストが横を通るし、生田さんからお手紙を貰いました)、体感型ミュージカル的な楽しさがありました。

そして何より井上芳雄井上芳雄の歌唱力。曲に目新しさというか耳新しさはあるんだけど、それを「聴かせる」ところまではいってないんじゃないかなーと思うキャストが多いなかで井上芳雄の演技としての歌、その底力をまざまざと見せつけられました。1幕にソロで歌うビックナンバーも、大彗星の中で歌うラストの曲も、井上芳雄の「歌」そのものに震えるほどの感動を覚えました。

そしてそして井上ピエールに存在感で負けてなかった小西遼生井上芳雄の歌唱力に顔面力で対抗できる小西遼生。顔とスタイルの美しさだけでアナトールという男を理解させてしまえる美貌力であり美暴力たるや・・・!。さすがに芳雄さんの歌に顔面力だけで勝てはしませんでしたがコニタンの美貌がなければこの話の説得力はかなり薄まっていただろうとは思うわけで、美しさとはそれだけで強大な武器なのだ。

アナトールが駆け落ちするってんでどんちゃん騒ぎする場面で(この時ピエールもいるんだけど、アナトールの駆け落ち相手がナターシャだって知らなかったのだろうか。てっきり知ってるもんだと思ってたのに、そのあとアナトールのことをめちゃめちゃ怒ってるもんで戸惑ったわ)、戻って来い!と客席通路にいる芳雄さんを呼び戻したあと武富士(古いたとえでスマンw)みたいなポーズしたままフリーズする時間がどうやらコニタン任せだったらしく、芳雄さんが「まだかよー」って感じでチラチラしてるのに武富士キープのコニタンに笑ったわw。