『フリー・コミティッド』@DDD青山クロスシアター

全38役を成河が演じる一人舞台ですが、すごかった。何かを感じる考えさせられる前にまず「成河ちゃんすげえええええええええ!!」が来る。

本役というか、主人公は俳優をやる傍らレストランで予約係として働くサムという男で、人気レストランなのでひっきりなしに予約の電話が入り、シェフやホールで働く同僚たちとも電話をしあい、さらに父親や兄や友人、所属事務所のスタッフとも会話を交わすのですが、2時間の上演時間中ひっきりなしにサムは誰かと喋ってる。サムとその「会話相手」を全て一人で演じるという形式で、成河さんはまさに怒涛の勢いで切り替え切り替え切り替えまくって演じ切るのです。それはとにかくもう圧巻で圧倒。だって成河ちゃん一度も台詞をトチらない!。

サムと会話する相手は性別も職業も様々で、住んでる場所もいろいろで、会話の中身(サムに対して言いたいこと)もそれぞれ違う。それらを観客に「伝える」ために結構なコメディ演出が為されてるのですが、おかげで見る側としてはとてもわかりやすいものの演じる側としてはそのわかりやすさが時に負担になることもあるんじゃないかなと思うの。なまじ“型”のようなものがあると切り替えるのが大変なんじゃないかなって。でも成河ちゃんノーミス。

成河さんにとっちゃ当たり前かもしれないけど、電話を取ってその役として声を発した瞬間その『役』になる。38役すべて。幕が上がってから下りるまで、観客の目の前にいるのはサムの姿のまんまの成河さんだけ、サムだけしか「見えない」のだけれど、電話の向こうにいる人間の姿がだんだんと「見えてくる」のです。

これまで舞台の上にいる成河に対しなんどもすごい!天才!!って思わされてきましたが、これまでの「すごい」「天才」とは違う次元の『成河の凄さ』に呑みこまれ流され最終的に溺れましたわ。溺死状態。

やってることは『電話で喋る』ただそれだけなのに、しっかりと起承転結がある脚本にも唸らされた。舞台上から意識が逸れる瞬間皆無。

サムはどうやらケーブルテレビの仕事を失ったようで、今現在は俳優としての仕事はなくオーディションを受けている最中らしい。だから経済的な理由もあるんだろうし、もしかしたら責任感的なものもあるのかもしれないけど、周囲の人間には“そんな仕事さっさと辞めろ”と言われながらも超人気レストランの予約電話受付係として働いている。クリスマスを間近に控えたこの日、サムが出勤するといるはずの同僚の姿はなく、電話が鳴り響いていた。とりあえず水を飲み、掛かっている電話に「予約係です。少々お待ちください」と告げサムは仕事を始めた。という「起」から、俳優仲間にサムも受けているオーディションの最終審査が明日あることを聞かされ(そいつは明日のオーディションに呼ばれてる)、自分も呼ばれるかどうか気になりつつも予約係としての仕事をしなければならず、腹ペコのままさらにはトイレ掃除という自分の仕事ではないことまで押しつけられついには予約の電話を受けながら号泣してしまう「承」「転」となり、俳優としての仕事もクリスマスに父親を独りっきりで食事させなければならないことも、なんかもうどうでもいいやとなったところで受けた予約電話の相手がオーディション関係者の知人で、「目一杯手一杯」の「フリーコミティッド」状態にもかかわらず希望の席を希望の時間で用意する(予約を受ける)ことでオーディション後に面会してもらえる“コネ”を手に入れ、それをキッカケにあっちでもこっちでも山積だった問題がなんだかんだで片付いてしまうという「結」までしっかりとサム自身の物語があるのです。

さらには電話相手たちの生活も見える。そこには『人生』があるのです。

最初からそれが見えているのではなく、一癖も二癖もある相手たちとサムによる面白おかしいやりとりを聞いて見てしてるうちに、ぼんやりと、だんだんとそれが見えてくる。どんな仕事をしてるのかとかどんな目的でレストランで食事をしたいのかとか、なにが起こっているのかとか、電話を介した会話の中にしかその材料はないというのに、そのわずかな情報からそのひとがだんだんと見えてくる。演者はたったひとりであるのにまるで群像劇のように思えてくるこの感覚はこれまでに味わったことのないもので、なんだか騙されてるような気分でした。

でね、個人的なことなのですが、わたしの仕事ってサムのそれとわりと同じような感じなんですよね。ここまであらゆる意味で酷い環境・状況ではないけれど、自分ではどうすることもできない理不尽な要求をぶつけられたり他人の尻拭いをさせられたりしているので、サムの感情にちょいちょい同化してしまう瞬間があって胸どころか内臓全てがキリキリ痛みました・・・。

サムに感情移入しながらも、一方ではなんでこんな仕事してるの?兄や友人が言うようにいつまでそんな仕事を続けているの?と冷静に客観的に思う自分も居て、それはつまりわたし自身に対する自問自答であったりするわけですが、サムがなぜこの仕事を続けているのか、劇中でその理由を語ることはありませんが、わたしが仕事を続けている理由は明白です。成河の舞台を見たいからだよ!。

ただ生きるだけならたぶん違う仕事をしてる。観劇という娯楽のために、成河が演じる役を作品を観るために、わたしは耐えているんです!これからも出来るかぎりずっと耐える!。成河ちゃん出ずっぱりという盆と正月が一緒に来た×10年分ぐらいのご褒美時間を過ごしながら、わたしは改めてそう心に誓ったよね。

サムは仕事場に来て一本目の電話に出るまえにお水を飲むんだけど、ものすごい勢いで500mlのペットボトルを五分の四ぐらい一気飲みしたあと「ゲフッ」ってするのと、怒りをぶつけるためかダーツをする(思いっきりボードに矢をぶっ刺す)んだけど、ど真ん中にヒットして「イヨッシ!!」ってガッツポーズするのがサムではなく成河ちゃんに見えてしまって好き!!!成河ちゃんすきだいすき!!!!!!!!!ってなる。成河さんに対しては好きの上限がない自分が恐い・・・。